gf1120032067 「これで登記に必要な書類は全て整いましたので、売買代金の精算をしてください」
 不動産の売買取引の最終局面は、司法書士のこうした宣言によって諸々の費用が一斉に精算される。 典型的なケースは、この宣言によって金融機関が買主に融資を実行し、買主はそのお金で売買代金を売主に支払う。 売主は受け取った売買代金から自分が融資を受けていた金融機関に返済を行う、というようなパターンである。 もちろん、これらにあわせて固定資産税、不動産仲介手数料、登記費用の精算なども行う。

 こうして、通常であれば1時間ほどで不動産取引の最終局面が終了するのである。 もしも、「必要な書類が整った」と宣言している一方で登記関係書類が一部でも不足していれば、売買代金が精算されているにもかかわらず所有権移転登記ができなかったり、金融機関の担保設定登記ができなくなることもあるわけである。

  売主と買主は、多くの場合顔見知りではないから、後から協力してくれるとは限らない。 こうした取引の現場では完璧が求められるのである。 ところで、こうした神経は、登記関係書類だけに向けられるわけではない。 目の前にいる売主は本当に本人なのか。本人確認のために提示された運転免許証は偽造されたものでないか・・・。

  時に、売主本人ではなく、売主の配偶者や子供が取引現場に本人の実印を持って現れることがある。そういう事態があらかじめわかっていれば事前に本人の意思を確認することもできるが、そうでない場合は取引の続行は困難である。

 「当日は、売主本人が取引に行けないので事前に本人に会って欲しい」と不動産取引業者から言われ、連れて行かれたのが老人ホームというのもまた困惑してしまう。
「この土地を売るということでいいですね」と聞けば
「あぁ、あぁ」というものの、このおじいちゃん、本当にわかっているのか不安になることもある。
 場合によっては成年後見制度の利用を勧めなければならない。

 また、取引当日における不動産の権利関係がどのようになっているかも重要である。 もちろん、取引の1~2週間前には権利関係の調査を済ませて取引の準備をしているのであるが、それから取引当日までに仮差押登記や担保設定登記がなされることもあり得る。
 売主を信用したいのは山々であるが、仮差押登記などは売主のあずかり知らぬところでされてしまうから、そういう問題ではないのである。

  取引の朝、登記情報を調べたところ債権者と思われる第三者に所有権移転登記がされていたという事態にも遭遇したことがある。 これは、金融業者に預けていた書類で登記されてしまったものであることが後日判明した。

 こんなことを経験しながら、今日も私は宣言するのである。

「これで登記に必要な書類は全て整いましたので、売買代金の精算をしてください」